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福岡地方裁判所 昭和62年(ワ)125号 判決 1987年5月19日

原告

グリーンマンション野間管理組合

右代表者理事長

下川時夫

右訴訟代理人弁護士

石渡一史

藤尾順司

池永満

安部尚志

被告

阿比留康明

主文

一  被告による別紙物件目録記載の建物専有部分の使用を本判決確定の日から三年間禁止する。

二  被告は、原告に対し、金三〇〇万円を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

一原告は、主文一ないし四項同旨の判決及び二項につき仮執行の宣言を求め、別紙のとおり請求原因を述べ、証拠として甲第一ないし第一一号証を提出し、証人田島啓人の証言及び原告代表者尋問の結果を援用した。

二被告は、公示送達による呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが、<証拠>によれば請求原因事実を認めることができる。

三以上によれば、原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官吉田 肇)

別紙請求原因

一 当事者

1 原告は福岡市南区野間四丁目一番三五号所在のグリーンマンション野間(以下単に「本件マンション」という)の区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保する目的を達成するため区分所有者全員をもつて結成された管理組合である。

下川時夫は原告の管理者たる理事長であり、かつ、原告が昭和六二年一月二〇日開催した第一一期臨時総会における決議により、「建物の区分所有等に関する法律」(以下単に「区分所有法」という)第五七条、同五八条にもとづいて本件訴訟を提起すべき者と指定された区分所有者である。

2 被告は別紙物件目録記載の建物専有部分(以下単に「四〇二号室」という)の区分所有者として同室を使用し、暴力団山口組系伊豆組内阿比留組組長を名乗つて活動しているものである。

二 本件マンションは昭和四九年に建築された八階建分譲マンションであり、一二一戸の専有部分のうち一三戸が店舗として、残りは居住用として使用されている。

本件マンションは平穏な住宅地域の中にあり、周囲には学校、マーケットなどがあつてその環境は良好である。

ところで被告は後記のとおり、原告の組合員でありながら数々の組合規約違反を繰りかえしており、被告による四〇二号室の使用は、本件マンションの他の区分所有者に対して共同生活上著しい障害を与えるものであり、かつ単に共同の利益に反する行為の停止等を求めることによつてはその障害を除去して他の区分所有者の共同生活の維持を図ることは困難なものである即ち、

1 被告は昭和五九年八月一三日、四〇二号室部分を買い受け同年九月二二日付けで所有権移転登記をし、その直後に入居した。被告は入居に際し、本件マンション管理人に対し、舶来小物・事務機器の販売を業としていること及び四〇二号室は被告夫婦の居住用として使用する旨告げていた。ところが被告はすぐに暴力団阿比留組組員数人を同居させ、室内に阿比留の名前が記載されているちようちんをならべるなど、四〇二号室を暴力団組事務所として使用し始めた。本件マンション管理組合規約第一五条は、「本件マンションの居住専有部分は居住用として使用しなければならない」と規定しており、同条4は「居住目的以外の事務所又は営業店舗として使用する場合は予め理事会の書面による同意を得なければならない」とされている。しかるに、被告は右同意を求めていないし、仮に求められたとしても暴力団事務所として使用することを理事会が同意することはありえないので、被告の右行為は管理組合規約第一五条に違反したものである。

2 昭和六〇年九月頃、本件マンション構内の浄化工事の際、四〇二号室に同居している阿比留組組員がドリルの音がうるさいと大声で怒鳴り、四階ベランダから右工事現場に向けてライターを投下するなどの暴力行為をなし、右工事を一時中断させた。これは「組合員はその所有する専有部分に居住又は出入りする者に組合員の共同の利益に反する行為をさせてはならない」と定めた管理規約第一七条2及び組合員に「屋上及びバルコニー・テラスより物品を投下すること」を禁じた第一九条11違反である。

3 被告は本件マンションの玄関前に大型自動車を長時間駐車させて住民のマンションの出入り、荷物の運搬等に障害を生じさせた。そのため表玄関前を駐車禁止にすると、次は本件マンションの裏玄関の駐車禁止区域に右自動車を駐車させ、他の区分所有者の車庫への出入りを妨げた。そこで昭和六一年一月一六日本件マンション管理組合理事会は、その決議にもとづき右自動車を撤去するよう被告に文書で勧告したが、被告による無断駐車は依然として続いた。これは「組合員は共有部分の使用に際しては組合員の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定めた管理組合規約第一七条1に違反するものである。

4 昭和六一年四月、四〇二号室に同居している阿比留組組員が本件マンションの裏玄関に駐車中の他人の自動車助手席から手さげカバンを盗み、警察に逮捕されるという事件を起こした。これは前記管理組合規約第一七条2に違反したものである。

5 昭和六一年一二月頃から、福岡県を中心に、暴力団の伊豆組と道仁会とが勢力争いを原因として互いに組織をあげた抗争を始め、連日のように発砲、襲撃事件を起こし、世論の大きな非難をあびていることは周知のところであるが、被告は暴力団伊豆組の幹部として右抗争に積極的に参加しており、そのため同人および四〇二号室は敵対関係にある道仁会系組員による襲撃の目標にもなつている。これに対し被告は若い組員らに抗争のための鉄板・砂袋・寝具等を運びこませ、右襲撃に備える準備をしている。警察も本件マンションにおいて発砲事件が起こり、住民が巻き添えになる危険性が高いと判断して、昭和六一年一二月一九日から昭和六二年一月七日まで、多いときには警察官八名を本件マンションに配備して特別厳重な警戒態勢を敷き、本件マンションへ出入りする人に対するボディーチェック等を行つた。さらに殺人未遂の容疑で昭和六一年一二月二八日に警察官二〇名を動員して四〇二号室の捜索を行つた。

このように被告らが四〇二号室を拠点として本件抗争に参加しているために、本件マンション住民の生命・身体の安全は重大な危殆に瀕し、他の区分所有者らの生活に多大な支障を来したことは組合員に「社会通念上明らかに第三者に迷惑を与えると判断される行為をなすこと」を禁じた管理組合規約第一九条13に違反する行為である。

三 原告は、あらかじめ被告に対して弁明の機会を与えた上で昭和六二年一月二〇日第一一期臨時総会を開催して、区分所有法所定の区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数で、被告に対し訴えをもつて区分所有法第五八条の請求をなすことを決議した。

四 そして、右被告による区分所有者の共同の利益に反する行為の態様、程度からすれば、本件建物専用部分の使用禁止期間は、本判決確定の日から三年間をもつて相当とする。

五 ところで原告は、被告の前記各行為によつて、前記二3で述べた昭和六一年一月一六日の駐車禁止区域から自動車を撤去する旨の理事会勧告をはじめとして、理事会の頻繁な開催及び総会招集、さらには仮処分申請、本件訴訟の提起など、その規約違反行為を除去するため多大の作業と出費を余儀なくされてきた。また、本件は、暴力団に対しその組事務所の撤去を求めるという特殊な事案であり、かつ暴力団による報復等の危険も予想されることから、原告は本件の処理を緊急かつ確実に行うために本件代理人弁護士らにその処理を依頼し、福岡県弁護士会報酬規定により報酬契約を締結するとともに着手金や訴訟実費等を支払つた。さらに理事長、その他理事会のメンバーをはじめ、原告の構成各組合員は被告の前記各行為によつて打合や諸会議の開催等多大な迷惑を蒙つた。これは単に個人としての迷惑というより、原告の構成組合員として蒙つたものというべきであり、原告の蒙つた損害は重大である。

従つて、被告は原告の蒙つた右損害のうち、少なくとも金三〇〇万円を賠償すべきである。

六 よつて、原告は、被告に対し、区分所有法第五八条に基づき本判決確定の日から三年間被告による四〇二号室の使用の禁止を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金三〇〇万円の支払を求める。

別紙物件目録

所在 福岡市南区野間四丁目壱番地

建物の番号 グリーンマンション野間

構造 鉄筋コンクリート造陸屋根八階建

床面積

一階 一五四二・二七平方メートル

二階 一三四三・九四平方メートル

三階 一三四三・九四平方メートル

四階 一三一二・四四平方メートル

五階 一二四八・七四平方メートル

六階 一二一六・五四平方メートル

七階 一二一六・五四平方メートル

八階 四四・二四平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 野間四丁目一番の四〇二

建物の番号 四〇二号

種類 居宅

構造 鉄筋コンクリート造壱階建

床面積 四階部分 六〇・五七平方メートル

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